text by 赤様
去年1年間に僕が読んだ本のなかで最も印象に残った本。
それは『わたしは、なぜたタダで70日間世界一周できたのか?』という本だ。
去年というよりも、ここ2~3年の間でみてもナンバーワンかもしれない。
これは、ある大学生(女性)が世界一周をしようと思い立ち、
その準備から旅行中、帰国後までを綴ったノンフィクションだ。
しかし困ったことに金がない。
しかも資金集めに使える時間は数ヶ月。
そこでタダで行く方法をと知恵を絞り、
資金を賄うために企画書を書く。
賛同してくれた人がメリットになるように、
旅行中に「これこれこういう行動をします」という趣旨の企画書だ。
その思いをひっさげ、理解者探しに奔走する。
そうやって自ら売り込み集めた協賛企業は、
NTTレゾナント(プロバイダのgoo)、
キャノン、
ヒューレットパッカード、
ダイヤモンド・ビッグ社(地球の歩き方)
・・・などなど、全部で25社。
旅行の成功以前に、まずこのことが凄いことだ。
では、メリットになる行動とは、どんなことだったのか。
まず、国際携帯電話を利用して、
リアルタイムのブログ更新をすることが大前提で、
そのブログを通しての宣伝活動が大きな柱だ。
そのいくつかのブログ上で、
旅行中に使っているモノの丈夫さや使い勝手をレポートする、
あるキャンペーンのキャラクターグッズと一緒に写真を撮る、
デジカメで全ての食事の写真を撮る、
サプリメントの感想をブログにアップする、
協賛企業と約束したテーマのブログを更新する、
などなど。
観光しに行ったのか、ミッションを果たしに行ったのかわからないほど、
その大変さがうかがえる。
ちなみに付け加えておくと、
この本を読むまで、僕はこの人のことを知らなかった。
この人は、それ以前に立ち上げた別のテーマのブログで、
1日の訪問者が47万件という数字を記録した実績がある。
そのおかげで、ブログ界ではちょっとした有名人らしく、
他にセミナーやイベントなどを自ら企画し実行してしまうらしい。
この本では、
前半は旅に出るまでのスポンサー獲得の悪戦苦闘の模様が綴られ、
後半はよくあるおもしろおかしい旅行記だが、
前半のその模様は、ほとんどどのメディアでも紹介されないような事柄なので、
これは本当に興味深く、その苦労の様子がよく滲み出ている。
実は、ネット上には、この本に対しての意見が賛否両論だった。
「困難に立ち向かう勇気をもらった」、
「同世代としてとても刺激をうけた」など肯定的な意見がある一方で、
「後に続く人の指南書になっていない」、
「観光している内容が薄い」などなど否定的な意見も多かった。
しかし、自分の思いを具現化してしまった行動力に僕は感服する。
単純に海外に観光旅行に行きたいのなら、
おそらくこんなことをせずに、普通に金を貯めて行った方が満喫できる。
でも、あえてそのやり方に挑んで全うしたことが称賛に値する。
この人は、誰かの真似をしたのではなく、
自分の信念と情熱に従い、困難にもブレずに突き進み、
自分の夢を自分の手で切り開いたのだ。
その心意気が素晴らしいと思えるのだ。
(ひとつ残念なところは、
どうやらひとり旅ではなく友人同行の旅のようなのだが)
机の上で物事の賛否を論ずる者は多い。
だが、行動しなければ何も得ることができないし、
自分の成長も周囲の環境も、何も変わらないのだ。
そのことを痛切につきつけられた1冊だった。
興味ある方は、ぜひご一読あれ。
著:伊藤春香
「わたしは、なぜタダで70日間世界一周できたのか?」
2009年刊