text by 赤様
僕は、中学から高校にかけて、毎晩のようにラジオを聴いていました。
同じクラスの仲間は、ほとんどが聴いていて、
休み時間は、前日のラジオの話題が、欠かせないものでした。
中でも、僕が特に好んで聴いていたのが、
「コサキン」と言われる、小堺一機と関根勤の番組です。
この番組の特徴は、笑いに「意味が無い」ことです。
意味が無い。脈絡がない。根拠がない。駄洒落でもない。
あるのは、とてつもない不条理と、果てしないくだらなさです。
この笑いがわからない人には、全く理解できない内容です。
なにせ、ラジオなのに「この写真を番組で紹介して!」
という投稿すらあるのですから。
さて、あるとき、この番組で本を出すことになりました。
ラジオというのは、リスナーからのお便りが番組作りには欠かせませんが、
そのお便りを本にしようとしたのです。
この番組の面白いところは、
リスナーの方から仕掛けていくところです。
本を作ると発表すると、募集もしていないのに、
タイトル案が続々とリスナーから届きました。
ヘンな連中です。
その中から決定したタイトルが「ら゛」です。
らりるれろの「ら」に濁点です。
なぜ、これに決まったのか?
その理由は、本屋で予約をするシーンが物語ります。
例えば、ある本屋で・・・
リスナー・・・ あの~、本を予約したいんですけど
店員・・・・・・ なんという名前の本ですか?
リスナー・・・ 『ら゛』です。
店員・・・・・・ だ?
リスナー・・・ いや、『ら』にテンテンがついて『ら゛』です。
店員・・・・・・ えっ?
というマヌケな会話になるからです。
これを面白がって、全国のリスナーが実際に本屋に行き、
予約の模様を続々とレポートしてきました。
はたして、妙なタイトルが理解してもらえるのか。
リスナーのワクワク、ドキドキ感や、
聞き取りに苦労する店員の様子がリアルに報告され、
発売前から大いに盛り上がりました。
一方、番組スタッフも負けてはいません。
本の発売日を放送の翌日としたのです。
というのも、
番組スタッフが放送中(深夜1時から3時)に、
都内の大型書店前に向かい、
番組の合間にレポートを入れるのです。
「発売前日ということもあり、
今、神田の三○堂の前に来ていますが、
本を手に入れようと徹夜で並んでいる人は、
1人もいません!」と。
当たり前です。
みんな予約しているのに徹夜する人なんていません。
数十分後、再びレポートが入ります。
「今、新宿の紀○国屋に来ています。
徹夜組は、こちらも1人もいません!」
と、まあ、こんなアホなノリなのです。
1冊目のこの本の盛り上がりで、以後、次々と続編が発行され、
この意味の無さは、とどまるところを知りませんでした。
今春、残念ながら2人のラジオは27年もの歴史に幕を閉じましたが、
僕がお笑いを好むようになったきっかけは、
この番組だったことは間違いないでしょう。