東京の相原に暮らしていたある夏、
開け放った窓から歌が聞こえてきた。
『月が でたでた 月が出た』
炭坑節である。盆踊である。
夕闇に提灯が浮かぶ会場で、
人々が踊っていた。
当時二十代後半であった私は、
これまでの人生で盆踊を間近で見たことがなかった。
その夏は盆踊をそこら中で見ることとなる。
相原の土地柄に衝撃を受けた。
島根県松江市で幼少期を過ごした私は
盆踊を知らない。
明治に松江に在住した作家、小泉八雲の著書(「新編 日本の面影」)に、
松江城築城時の伝説により踊りが市内で行われなくなった、
と書いてあったが、はたして。
盆踊は誰でも飛び入り参加可能らしい。
本当だろうか?
あの一体感には、一見お断りのような高い敷居を感じる。