パーソナルベスト

text by 赤様

自分の限界に挑戦する。
そう言うと、聞こえはいいが容易いことではない。
学生時代に運動部にいた方なら、わかっていただけるだろう。

僕は陸上競技をやっていた。
陸上競技と他の競技の違うところは、いくつかあると思うが、
僕が思うところでは、
自分の記録というものを各々が持っていることだ。

オリンピックでメダルを採るような世界のトップ選手でも、
弱小中学校の陸上部員でも、
自己ベスト記録というものを各自が持っていて、
誰であろうと、みんなが同じモノサシの上で比較できる。

その自己ベスト記録のことを、
陸上競技の世界ではパーソナルベストという。
(テレビでは記録の横に「PB」と省略して表す)

野球で打率がどれくらいだったとか、
サッカーで何点ゴールを決めたとかは、
相手によるところが大きいので、
それがどのくらいの実力を示すのかは、わかりずらい。
でも陸上競技の記録は客観性があり、
自らの実力が露わになる。

客観性があるがゆえに残酷。
記録だけがものを言う世界。

だから、たとえアジア数十億人の頂点に立つ選手でも、
よい記録を持っていないと、世界からは全く相手にされない。
世界でも通じる記録を出すことによって、
世界のトップ選手が出場する欧米の大会にようやっとエントリーできる、
なんてことはよくあること。
オリンピックでよい順位になっても、しかりだ。

だから、たいていの競技は順位を気にするが、
陸上部出身の人間は、
「何位?」とは聞かず、記録を聞くのだ。

数字だけで評価されるのは、
ちょっと会社の営業部みたいで、なんだか夢がない。

でも、どんな世界でもそうだが、
自分の最高のパフォーマンスを発揮することは素晴らしいことだ。
パーソナルベストという、現時点での自分の限界に挑戦し、
それを打ち破ることができたなら、
これは何物にも代え難いその人の財産だ。

これを称えずして何を称えよう。

確かに、日本記録や世界記録は、派手で華々しいモノがある。
でも、たとえば走高跳びで、
身長1m70cmの選手が2m20cmを跳ぶのと、
2mの選手が2m30cmを跳ぶのと、どちらが凄いことなのか。
そういうところまで考えると、
軽率に世界記録保持者が凄いとは言い切れないところがある。

ならば、それよりも誰もが挑戦でき、
しかもそう容易くは超えられない自分の限界を超えたときこそ、
賞賛しようではないかと僕は思うのである。

27日からは世界陸上が行われる。
パーソナルベストを破った選手に、
惜しみない拍手を贈りたいと僕は思う。


※ちなみに、「PB」のほかに、
 テレビで紹介される記録の略称はこんなものがある。
「SB」はシーズンベスト(その選手の今シーズンの最高記録)
「NR」はナショナルレコード(その選手の国内記録=日本人なら日本記録)
「WR」はワールドレコード(世界記録)
「WL」はワールドリーディング(全世界で今シーズンの最高記録)

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このページは、cmemberが2011年8月19日 08:35に書いたブログ記事です。

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