text by 赤様
とある休日の日中。
携帯を見ると着信があったことを知らせるマークがついていた。
2秒とコールした時間が表示されている。
おやおや?と思い、あとで事情を聞いてみると、
どうやら押し間違えてしまったとのこと。
僕のところには、そんな電話が多い。
そういえば、以前にもこんなことがあった。
留守録が入っていたので聞いてみると、
カツカツカツ・・・と歩く音。
しばらくして、
―――1番線に電車がまいります。白線の内側にお下がりください・・・
駅のアナウンスだ。
なんだろうと思っていると、やがて、電車がやってくる音がして、
足音は、どうやらそれに乗りこんだような雰囲気。
で、電車が動く音がすると、プツッと切れてしまった。
地下鉄だったのだろうか。
そのあいだ、電話主の声は全くナシ。
後日、電話主に聞いてみると、
「えっ、全然知らないよ」と。
何かのはずみで、発信してしまったようだ。
他にも、
『もしもし』と僕が電話に出てみると、どうも様子がおかしい。
なにやら声が聞こえるのだが、
小さい声、というより、電話から離れたところでしゃべっている感じだ。
で、よくよく聞いてみると、
どうやら僕に向かって話しているのではなく、
他に誰かいるらしく、その人と会話しているようなのだ。
これも後日聞いてみると、本人は全く自覚が無く、
電話のあと「発信履歴があった~」と返事がきた。
ちょっと前の携帯は、ボタンがむき出しのモノがほとんどだったから、
人の声のしない電話がよくかかってきた。
で、いろいろ質問してみてわかったのが、
あいうえお順の最初に僕の名前があるという共通点だ。
いつの間にか、携帯の電話帳ボタンが押され、
その最初にある番号にかかってしまうというワケだ。
だから、日本全国の「あ」で始まる苗字の人は、
多分同じようなことを経験しているのだと思う。
よくあることなので、いつの間にか慣れっこになってしまったが、
パカッと開く携帯が流行り始めたころから、そんな電話は減ってしまった。
今となっては、ちょっと淋しくさえ感じる。
そんななかでも、印象的だったのは、こんな電話。
僕が『もしもし』と言う間もなく、
「グヮーパァーーーー、#@%☆¥&£・・・」と。
最初は、ついに宇宙人からの電話か?と思った。
やがて「ドンドン・・・」と、たぶん電話を叩く音。
そのうち「ウァーーーッ・・・」という叫び声とともに、
ゴン、ゴン、ガチャーーン!
と、どこかに投げつけてしまったのだろう。
電話の主は、そこのうちの赤ちゃんだった。
面白いからしばらく聞いていたのだが、
電話の持ち主(友人)に連絡するすべもなく、
もしかしたら、この電話はいつまでも切れないのかも、
と思い、切ってしまった。
『電話でしゃべりたいのなら、いつでも聞いてあげるけど、
今度は親の管理のもとでかけてきてね』
後日、その赤ちゃんに電話でそう言ったのだが、
当の本人は・・・、何も喋らなかった。