text by 赤様
駅員にうながされ改札を出た。
母の実家のある町は、
すでに祭りの雰囲気が感じられた。
いくつかある商店の軒先には、
祭りのポスターが貼られている。
―――あ、おじいちゃんだ~~
駅前には、帰省した親子が、プリウスから降りてきた初老の男と、
久しぶりの再会を喜んでいた。
僕は、母の実家に向けて歩き出した。
『今までみていたのは、夢だったのか・・・』
少し考えた。
だが、歩いているうちに、
そんなことは夢でも現実でもどうでもいいことだと思いなおした。
そう。僕はいままで、面倒くさいと思うと、
人とのかかわりを、何かに理由をつけて避けてきた。
とにかくその場凌ぎで、自分の気の済むようになれば、
それでいいと思ってきた。
特にコミュニケーションが苦手なワケではない。
だけど、器用に他人と接することが出来ず、
しかも、逃げているという後ろめたさもあり、
そんなもどかしさが、いつも心の中を旋回していた。
そうわかってはいるものの、それを直そうとはせず、
そうしているうちに時間だけは確実に過ぎていき、
袋小路から抜け出せなくなっていた。
でも、ようやく気づけたのだ。
逃げても、自分の人生のなんの足しにもならない。
何事も素直に受け入れ、敬意を持って相手と真正面から接することで、
はじめて、相手のやさしさを感じることができる。
ばあちゃんがそう思わせてくれたのだ。
携帯が鳴った。
電話は、小学校以来の親友の慎司からだった。
神社の向かいにある町内会館で、
祭りに出す店の準備をするから、おまえも来い、
という内容だった。
「今日は絶対に行くよー!」
そう言って電話をきった。
でもその前に、行きたい、いや行かねばならないところがあった。
安養寺だ。
ばあちゃんはその墓地に眠っているのだ。
『何よりも、まずそこに行って挨拶をしなきゃ』
さっきバックに入れておいた飴玉をポンと口に入れた。
そして、その包みをしばらくじっと見た。
『これは捨てられないな』と思い、
きれいに折って定期入れの中にしまった。
空を見上げた。
大きな青い空に入道雲がわきたっている。
時間は昼を少しまわっていた。
僕の心は、この空のように晴ればれとしていた。
(完)
後口上
いかがでしたか。
現状9人の担当者が物語を繋いでいくという無茶?な試み。
この間、互いの申し合わせは一切なし。
朝に更新されるブログを読んで、
次の担当者が続きのストーリーを考えるという、
まるで落語の大喜利のようなプロジェクトでした。
それでも、なんとかひとつのカタチになったのではないでしょうか・・・。
この難題に、いつもより余計にプレッシャーを感じ、
帰宅後、深夜遅くまで考えて文章化していた面々の、
血と汗と涙の結晶です(ちょっと大袈裟か)。
振り返れば5年も続いたこのブログを、
これをキッカケに、なお一層のご愛顧をいただければ幸いです。
これからもよろしくお願いいたします。
あ、最後に、これだけは言わせてください。
この物語は、フィクションです。(笑)