第七回

僕の叫び声に、ばあちゃんは驚いた表情で振り向いた。
そして僕の姿を見ると、
涙をごまかすようにあわてて目を伏せる。


「はぁ、はぁ、ば、ばあちゃん・・・」

追いついた僕は少し息を整え、
ばあちゃんと向き合った。

ばあちゃんの手はわずかに震え、
持っていたお稲荷様をぎゅっと抱き寄せた。

昔の僕には気づくことができなかった。
いや、気づこうとしなかったのか。


本当は知っていたんだ。

ばあちゃんにとってこのお稲荷様は、
亡くなったじいさんの大切な形見だということを。

ばあちゃんの大切な宝物だった。

だから、幼い僕は
ばあちゃんのあまりにも大きな悲しみから
ただ逃げることしかできなかった・・・。

でも、いまの僕なら大丈夫。

こみ上げる涙を必死にこらえ、
僕はばあちゃんに言った。

「ばあちゃん・・・
 お稲荷様を壊したのは僕です。ごめんなさい。
 ばあちゃんを傷つけてしまって、本当にごめんなさい!!」

僕は、深々と頭を下げた。

 

長い沈黙が続く。

 

ぐいっ

突然首を無理やりばあちゃんのほうに向けられた。

怒鳴り声とげんこつを覚悟して目をつぶっていた僕に、
ばあちゃんは驚くほどやさしい声で言った。

「もう、いいんだよ。
 ごめんね。ありがとう、たかひこ」

あぁ、そうだ。
これが、僕がずっと探していたもの。

目の前には、
やさしい笑顔のばあちゃんがいた。 

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このページは、cmemberが2010年12月 1日 08:34に書いたブログ記事です。

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