僕の叫び声に、ばあちゃんは驚いた表情で振り向いた。
そして僕の姿を見ると、
涙をごまかすようにあわてて目を伏せる。
「はぁ、はぁ、ば、ばあちゃん・・・」
追いついた僕は少し息を整え、
ばあちゃんと向き合った。
ばあちゃんの手はわずかに震え、
持っていたお稲荷様をぎゅっと抱き寄せた。
昔の僕には気づくことができなかった。
いや、気づこうとしなかったのか。
本当は知っていたんだ。
ばあちゃんにとってこのお稲荷様は、
亡くなったじいさんの大切な形見だということを。
ばあちゃんの大切な宝物だった。
だから、幼い僕は
ばあちゃんのあまりにも大きな悲しみから
ただ逃げることしかできなかった・・・。
でも、いまの僕なら大丈夫。
こみ上げる涙を必死にこらえ、
僕はばあちゃんに言った。
「ばあちゃん・・・
お稲荷様を壊したのは僕です。ごめんなさい。
ばあちゃんを傷つけてしまって、本当にごめんなさい!!」
僕は、深々と頭を下げた。
長い沈黙が続く。
ぐいっ
突然首を無理やりばあちゃんのほうに向けられた。
怒鳴り声とげんこつを覚悟して目をつぶっていた僕に、
ばあちゃんは驚くほどやさしい声で言った。
「もう、いいんだよ。
ごめんね。ありがとう、たかひこ」
あぁ、そうだ。
これが、僕がずっと探していたもの。
目の前には、
やさしい笑顔のばあちゃんがいた。