家の中が騒がしくなった。
そうか、そろそろみんながお祭りに行くのか。
「貴彦...」
名前を呼ばれ顔を上げると、母と親父がいた。
「お前...分かっているんだろうな?抜け出そうなんて思うなよ!
ちゃんとばあちゃんもいるんだから。なっ!」
あの時は、ここで泣くわ喚くわの駄々こねて、きついゲンコツくらったな。
でっかいタンコブ作ったの今でも忘れられない。
「わ、分かっているよ。今日は、我慢する...」
今は大人だ、冷静な対応が出来ている...はず。
「うん?そうか...。」
「それじゃ、行ってくるから大人しくしてなさいよ。」
聞き分けがいい僕にいぶかしげながらも2人は部屋を出て行った。
ほどなくして、みんなが家を出た。
さてと、ばあちゃんに話してくるか。
廊下を左に曲がるとそこがばあちゃんの部屋だ。
「ばあちゃん、話があるんだけど入るよ。」
そう言いながら襖に手をかける。
中に入るともぬけの殻、誰もいない。
「あれ?お手洗いかな。」
だが、手洗いに明かりは灯っていない。
どこに行ったのだろうか?
家中を探してみたがどこにもいる気配が無い、
そうしている間にも刻々と時間が迫ってきている。
ここで遅れたら結局怖気づいたって言われてしまう。
ばあちゃんに話すのは後にして、
まずは安養寺に向かうことにした。
裏口を開け、こっそりと出て行く。
誰もいないはずなのにビクビクするのは今も昔も変わらない
家から離れれば、あとはコッチのもんだ!
意気揚々と歩いていると前方から人が歩いてくるのが見えた。
「あ!安養寺のじいさん と、ば、ば、ばあちゃん!?」
「やっべ!か、隠れないと!」
あわてて近くにあった看板の後ろに隠れる。
見つからないように様子を伺うと、どうやら僕の事には気付いてないようだ。
注意を払いながら2人が遠ざかっていくのを確認する。
たぶん、家に戻るのだろう。
このまま、安養寺に進めば楽しい肝試しが始まる。
学校の人気者になれるかもしれない、
そんなこと数時間前まで考えてた。
でも...
僕が壊したお稲荷様の像を大事そうに抱えながら
今にも泣き出しそうなばあちゃんを見てしまったから
僕は無我夢中で走った。
あんなばあちゃん見たことなかった
事の重大さが今なら分かる気がする
言わなきゃ!
あの時、心から言えなかったこと
今の僕にならきっと言える。
(つづく)