第五回

家の中が騒がしくなった。
そうか、そろそろみんながお祭りに行くのか。

「貴彦...」

名前を呼ばれ顔を上げると、母と親父がいた。

「お前...分かっているんだろうな?抜け出そうなんて思うなよ!
ちゃんとばあちゃんもいるんだから。なっ!」

あの時は、ここで泣くわ喚くわの駄々こねて、きついゲンコツくらったな。
でっかいタンコブ作ったの今でも忘れられない。

「わ、分かっているよ。今日は、我慢する...」
今は大人だ、冷静な対応が出来ている...はず。

「うん?そうか...。」
「それじゃ、行ってくるから大人しくしてなさいよ。」

聞き分けがいい僕にいぶかしげながらも2人は部屋を出て行った。

 

ほどなくして、みんなが家を出た。
さてと、ばあちゃんに話してくるか。

廊下を左に曲がるとそこがばあちゃんの部屋だ。


「ばあちゃん、話があるんだけど入るよ。」


そう言いながら襖に手をかける。
中に入るともぬけの殻、誰もいない。

「あれ?お手洗いかな。」

だが、手洗いに明かりは灯っていない。
どこに行ったのだろうか?

家中を探してみたがどこにもいる気配が無い、
そうしている間にも刻々と時間が迫ってきている。
ここで遅れたら結局怖気づいたって言われてしまう。

ばあちゃんに話すのは後にして、
まずは安養寺に向かうことにした。

 

裏口を開け、こっそりと出て行く。
誰もいないはずなのにビクビクするのは今も昔も変わらない
家から離れれば、あとはコッチのもんだ!

意気揚々と歩いていると前方から人が歩いてくるのが見えた。


「あ!安養寺のじいさん と、ば、ば、ばあちゃん!?」
「やっべ!か、隠れないと!」


あわてて近くにあった看板の後ろに隠れる。
見つからないように様子を伺うと、どうやら僕の事には気付いてないようだ。
注意を払いながら2人が遠ざかっていくのを確認する。
たぶん、家に戻るのだろう。


このまま、安養寺に進めば楽しい肝試しが始まる。
学校の人気者になれるかもしれない、
そんなこと数時間前まで考えてた。

でも...

 

僕が壊したお稲荷様の像を大事そうに抱えながら
今にも泣き出しそうなばあちゃんを見てしまったから

 

僕は無我夢中で走った。

あんなばあちゃん見たことなかった
事の重大さが今なら分かる気がする

 

言わなきゃ!
あの時、心から言えなかったこと

今の僕にならきっと言える。

 

(つづく)

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このページは、cmemberが2010年11月29日 09:00に書いたブログ記事です。

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