第四回

「違うんだよ!・・・僕じゃない。」

我ながら嘘くさいな、と思いつつもつい言い訳が口をつく。


「他に誰が居るの! 逃げるアンタが見えたんだよ!」


「うっ・・・」


「嘘つきの悪い子は、お祭りに行ったらいけないからね!」

と追い打ちをかける母。





そうだ、この『お稲荷さん事件』はここからが辛かったんだ。





年に一度の大イベントであるお祭りは次の日に迫っていた。


ばぁちゃんの代からのお稲荷さんを壊した罪は、そう簡単には許されない。


謝っても、泣いても、もちろんダメで

最後の切り札として『来年のお年玉をつぎ込んで自分で直す』と宣言しても

結局許してもらえなかった。


ばぁちゃんと二人っきりの家でお囃子を遠くに聞きながら

無惨に横たわるお稲荷さんに「ごめんなさい」をしたあの夜は

悲しさというより、悔しさでいっぱいだった。



だってあの日は、約束してたんだ。


夜、子供だけで遊べる

年に一回の日に安養寺で

いつもの仲間で肝試しをしようって。



怖じ気づいて来なかったって散々バカにされたっけ。


一週間、秘密基地の出入り禁止令も下されたな。





よし、ここはひとつ

せっかくこんな姿だし

大人の知恵と経験をフル活用して

名誉挽回でもしてみようか?





ばあちゃんは家族の中で、僕の一番の理解者。

本当のことを素直に話せば

「男をあげておいで!」って送り出してくれるはず。


ほかの家族はみんなお祭りで神社に行ってるから

反対方向の安養寺に行ったって

目撃される心配はない。


しかも大人の僕は、夜の安養寺だって怖くない!


この勝負もらった!



みんなに尊敬のまなざしで見られる

2学期が待ってるぞ!


僕はそんなことを考えながら

祭りの時間まで怪しまれない程度に

反省したり謝ったりして過ごした。




絶対にうまくいくと思ってた。


非現実的な状況に高揚して

『大切なこと』が全く見えていなかったんだ・・・。


(つづく)

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このページは、cmemberが2010年11月26日 09:00に書いたブログ記事です。

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