「お客さん!終点ですよ!!」
駅員に肩を揺すられ目がさめた。
どうやらかなり深い眠りに入っていたようだ。
日ごろの疲れもあるのだろうか。
考えて見れば最近休みなく働いてたっけ。
そりゃ目も覚めないはずだよな。
そんなことを考えながら下車の準備を・・・
えっ!?
荷物がない!
身に着けていた携帯も財布も無くなっている。
水筒にいれてきたネスカフェの姿もない!
一体何が起こったんだ!?
ネスカフェは誰が飲んだんだ!?
ふと外を見渡すと、もう夕日が差している。
はぁ!?
確か出発は朝だったような・・・
普通なら昼過ぎには着いているはず。
色々な事が起こりすぎて状況がよく掴めない。
「と、とにかく降りなくちゃ」
自分に言い聞かせるようにつぶやき、
慌てて電車を降りる。
あれ・・・?
目の前に広がるのは、
まちがいなく僕の良く知る景色。
幼い頃から知っている、懐かしい田舎の風景だ。
でもなぜだろう。
なんだ、この違和感。
心の奥がわくわくするような、
安心するような、でも不安なような。
なんともいえない感情に戸惑い、
その場に立ち尽くしてしまった。
「どうかされましたか?」
後ろから声をかけられ、
慌てて振り向く。
そこには、ちいさなおじいさんが立っていた。
「あ、安養寺のじいさん!?」
そう、彼は『安養寺のじいさん』。
近所に住んでいて、幼い頃から良くしてもらっていた。
そこで、ふと気づく。
どうして、じいさんがここに?
たしかじいさんは30年も前に・・・亡くなっているはず。
僕の感じていた違和感が、突然おおきな不安に変わる。
幼い頃から『何も変わらない』懐かしい風景・・・
そして目の前にいる、安養寺のじいさん。
僕は、恐る恐る尋ねた。
「あの、いま、ここは・・・いつ、ですか?」
じいさんは、あの頃と変わらぬやさしい笑顔で答えた。
「昭和四十年八月十五日、だよ」
頭の中がまっしろになる。
昭和?
そんなまさか。でも。
いや、とにかく駅を出て確かめなきゃ。
なにかの間違いかもしれないし・・・
僕は慌てて改札へ足を向ける。
そのとき、じいさんは静かにつぶやいた。
「大切ななにかを、見つけにきたんだろう?
おまえさんならきっと、見つかるはずさ」
そのときの僕には、
その言葉の意味を理解することができなかった。
だが今思えば、安養寺のじいさんのその言葉が
すべてを暗示していたんだ。
(つづく)