第二回

「お客さん!終点ですよ!!」


駅員に肩を揺すられ目がさめた。
どうやらかなり深い眠りに入っていたようだ。
日ごろの疲れもあるのだろうか。
考えて見れば最近休みなく働いてたっけ。
そりゃ目も覚めないはずだよな。

そんなことを考えながら下車の準備を・・・

えっ!?
荷物がない!

身に着けていた携帯も財布も無くなっている。
水筒にいれてきたネスカフェの姿もない!
一体何が起こったんだ!?
ネスカフェは誰が飲んだんだ!?

ふと外を見渡すと、もう夕日が差している。

はぁ!?

確か出発は朝だったような・・・
普通なら昼過ぎには着いているはず。
色々な事が起こりすぎて状況がよく掴めない。

「と、とにかく降りなくちゃ」

自分に言い聞かせるようにつぶやき、
慌てて電車を降りる。

あれ・・・?

目の前に広がるのは、
まちがいなく僕の良く知る景色。
幼い頃から知っている、懐かしい田舎の風景だ。

でもなぜだろう。
なんだ、この違和感。

心の奥がわくわくするような、
安心するような、でも不安なような。

なんともいえない感情に戸惑い、
その場に立ち尽くしてしまった。

 

「どうかされましたか?」

 

後ろから声をかけられ、
慌てて振り向く。

そこには、ちいさなおじいさんが立っていた。

「あ、安養寺のじいさん!?」

そう、彼は『安養寺のじいさん』。
近所に住んでいて、幼い頃から良くしてもらっていた。

そこで、ふと気づく。

どうして、じいさんがここに?
たしかじいさんは30年も前に・・・亡くなっているはず。

僕の感じていた違和感が、突然おおきな不安に変わる。

幼い頃から『何も変わらない』懐かしい風景・・・
そして目の前にいる、安養寺のじいさん。

僕は、恐る恐る尋ねた。

「あの、いま、ここは・・・いつ、ですか?」

じいさんは、あの頃と変わらぬやさしい笑顔で答えた。

「昭和四十年八月十五日、だよ」


頭の中がまっしろになる。
昭和?
そんなまさか。でも。
いや、とにかく駅を出て確かめなきゃ。
なにかの間違いかもしれないし・・・

僕は慌てて改札へ足を向ける。

そのとき、じいさんは静かにつぶやいた。

「大切ななにかを、見つけにきたんだろう?
 おまえさんならきっと、見つかるはずさ」

そのときの僕には、
その言葉の意味を理解することができなかった。

だが今思えば、安養寺のじいさんのその言葉が
すべてを暗示していたんだ。

(つづく)


 

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このページは、cmemberが2010年11月24日 08:55に書いたブログ記事です。

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