text by 赤様
「1度も登らぬバカ、2度登るバカ」
富士山には、そういう言葉があるらしい。
それに当てはめると、僕もバカのひとりである。
でも、僕は2度登った方のだ。
去年、富士山の登山者は30万人もいたそうだ。
僕が登ったのは2度とも10数年ほど前。
僕も何度も山に登っているが、
登ること自体が、これほどつまらない山もない。
遠くから眺めると、すり鉢状が美しいが、
登るとなると、それが逆効果。
変化がない。単調。しかも富士山特有の砂の斜面もある。
では、なぜ登るのでしょう。
やっぱり日本一の山に登りたい!
おそらく、みんなそんな理由だろう。
そう、それに登らなきゃ味わえないものがいくつもある!
まず、なんと言っても、山頂に辿り着いたときの達成感!
これは、容易に想像がつくでしょう。
五合目から6時間はかかるので、この歓びはひとしおです。
ここが富士山頂 日本の頂点!
それに眺め。
晴れていれば、眺めは最高!
伊豆半島が逆さに見え、富士五湖や南アルプスもきれいに見える。
なんてったって、日本一高いところから見る景色。格別である。
それと、これはちょっと想像しがたいが、気圧の違い。
晴れていても600~700hPa(ヘクトパスカル)くらいしかない。
地上だと、だいたい高気圧が1020くらいで、
台風だって大きいのでも960くらいなので、
600なんていうのは、こういうところでしか味わえない。
ちょっと空気が薄くて息苦しくもあるが、身体の周りの空気が軽く感じる。
この感覚はちょっと不思議。
また、山頂の様子はどうかというと、意外に広くて人が多い。
宿泊所とみやげもの屋を兼ねた山小屋が十件くらい建ち、
それに郵便局や公衆電話もあり、ちょっとした街である。
(この電話、シーズンが終わるとNTTの人が麓まで背負って行くのだ!)
山小屋の裏には噴火口があり、
その向こうには天気予報でお馴染みだった測候所がある。
これが噴火口です。この下にはマグマが・・・
測候所のいわゆる「富士山レーダー」
でも逆に無いのは、水と電気。
電気はそれぞれの施設の脇で自家発電。
水は、麓から運ぶしかない。
ブルドーザーが大きいシャベルの上に、
たくさんの食料物資を乗せて、ガタガタとゆっくり運ぶのだ。
だから、物価は「下界」の数倍。
ペットボトルのお茶が当時400円もした。
新宿駅西口から富士山五合目まで直通バスがあり、
2時間半くらいで富士吉田口五合目に着く。これが最も便利。
でもそこからは、自分の足だけが頼り。
富士山には、主に4つの登山道があるが、
この富士吉田口は最も登山者が多い。
ピーク時には渋滞するほど。人が多すぎて登れないときだってある。
では、どんな人が登っているのかというと、
赤ん坊以外の老若男女が全ていると言ってよい。
急斜面を前傾姿勢で登っているお婆ちゃんが僕の前にいて、
「この人すごいなぁ」と関心していたら、
そのお婆ちゃんは、普段から腰が曲がっていて、
休憩所の平らなところでも、前傾姿勢だった(笑)、とか、
また、幼稚園児くらいの子供も、親に負けじと、
「よいしょ、よいしょ」と自分より大きな岩の道を登っていたり、
他にも「日本一」ってハチマキした外国人がいたり、
登山し慣れた人だけでなく、いろんな人がいる。
そんなことを考えていたら、
登ったときの様子がいろいろと甦ってきた。
地上とは違う、空の青の濃さとか、
風がピタリと止んだときの、何も音が聞こえない不思議な感覚とか、
気温が6度くらいしかないに、日光が暖かく感じたこととか。
ああ、また登りたくなってきました。
でも今年は無理かな・・・
山頂から見た雲海です(西の方角)