選手を守った水泳連盟

text by 赤様

速く泳げる水着「レーザーレーサー」が注目を集めている。
イギリスのスピード社が発表したものだ。
NASAが開発に協力し、
極度の締め付けによる姿勢の維持と、水を弾くことに優れ、
泳ぐときの抵抗を大幅に抑制できるのだそうだ。

今年2月に発表されると、たった数ヶ月ですでに35個の世界新記録を出した。
着るだけで早く泳げるのなら、オリンピックでメダルを狙う選手にとって、
是が非でも手に入れたいと思うのは当然の心理だろう。

選手が着る水着というのは、その多くはメーカーとの契約がある。
これは水泳に限らず、ほとんどの競技で同様だ。
オリンピックに出るほどの選手にもなれば、
契約金をもらって、なおかつ用具も着るモノも無料でメーカーから提供される。
選手が広告塔となっているのだ。

日本水泳連盟は、国内の3社と契約を結んでおり、
個人で泳ぐときは関係ないが、日本代表として戦う場合、
この3社のいずれかの水着を着なければならない。
これまでの日本の水着は、泳ぎやすい水着としてそれなりに定評はあった。
しかし、好記録を連発する水着が現れたことに、選手が黙っているハズはない。
でも、そこには「契約」という、選手個人ではどうしようもない壁があった。

そこを敏感にキャッチした日本水泳連盟が動いた。
5月上旬に会議を開き、同月30日までに契約している国内3社に対して、
水着の改良を要求した。前代未聞のことだ。
しかし、水着の製作は、そんな短期間で出来るものではない。
レーザーレーサーも開発に3年以上かかっている。
こんな無理な要求を、他競技の連盟が言えるだろうか。
水泳連盟としても、ひとつでも多くのメダルが欲しいのはわかるが、
英断と言ってもいい、その行動が素晴らしい。

古い体質を汲んでいる各競技の連盟では、あり得ないと思える行動だ。
そういう意味では、水泳連盟は一歩進んでいる。
個人競技なのに、連盟主導でチーム制を導入し、
日本代表チームというものを選手に強烈に意識させ、
遠征や合宿でも、連帯感や競争心を上手く利用した。
また、選考会でも他国の選考基準よりも高い記録を要求し、
前回のアテネ五輪では、メダル8個と空前のメダルラッシュを実現させた。
今度の水着問題も、連盟が楯となり、現状の契約を無にしてしまうほどの行動だ。
言葉は悪いが、よくぞ巧妙な手口を編みだしたものだと思う。

国内3社は、水泳連盟の要求どおり5月30日に新作を発表。
水泳連盟は比較のための競技会を開き、
選手は、その新作とレーザーレーサーを比較した。
本来、泳ぎこみや筋力強化で、選手は記録が出るコンディションではない時期だ。
にもかかわらず3日間で16個の日本新記録が出た。
万全のコンディションで望んだ4月のオリンピック選考会が8個だから、
その凄さがわかる。

世界でも論争が起こっている。
ドイツの水泳連盟は国内のメーカーとの契約があり、
莫大な契約金をもらっている。
しかし、国内選考でオリンピック代表に選ばれたとたんに、
このレーザーレーサーを着れなくなることになり、
違約金を払ってでも契約を解除し、
レーザーレーサーを着たいという選手が現れるだろうと言われている。
選手からは、それほど羨望の対象なのだ。

しかし、焦点が水着にいっていることに対して、
北島康介は競技会で「泳ぐのは僕だ」とプリントされたTシャツで登場した。
着るモノではなく、選手がどう戦うか、どういう試合になるかが、
スポーツの醍醐味だ。
その点では、日本選手は同じ土俵に立てたことになる。
これで言い訳ができなくなったのだ。
北京本番では、彼らの熱い戦いに期待したい。

ちなみにこの水着、冒頭にも書いたが、
最新技術を駆使するため量産が難しく、値段も6万6千円もするそうだ。
また、その締め付けのせいか、着用に20~30分もかかる選手もいるらしい。
速く泳げるのに、早く着れないというのは、どうなのか。
次の技術革新のための伸びしろなのだろうか・・・

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このブログ記事について

このページは、cforceが2008年6月13日 09:00に書いたブログ記事です。

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