絵を描く女性

text by 赤様

背の高い女性がカートを引きずり、
電車の中を歩いて僕の隣に座った。
外国人の女性だった。

座るとすぐにカートの中を整理しはじめた。
瓶のに入った水をプラスチックボトルに移したり。
ガサゴゾ、ガサゴソ・・・。

本を読んでいた僕は、
落ち着かないその女性がうざったかった。

しばらくして整理し終えると、
小さなスケッチブックと
色鉛筆が20本くらい入っているケースを取り出し、
唐突に絵を描き始めた。

何でこんなところで・・・と思いつつ、
十年くらい前のある出来事が甦ってきた。

寝ぼけ眼で地下鉄に乗っていた。
日曜の朝、通勤中のことだ。
8時30分、赤坂見付の駅に着くと、
一人の女性が乗ってきた。
手にはA3くらいの大きなスケッチブック。

ほとんど乗客がいない座席に座ると、
そのスケッチブックを広げ、
電車中のある一点を見つめ描き始めた。

鉛筆を持った手がとてつもない勢いで動く。
次の駅、青山一丁目までのわずか2分間の出来事だ。
ドアが開くと同時にスケッチブックを閉じ、
その女性は颯爽と電車を降りていった。

一気に目が覚めた。
彼女のそのエネルギーを目の当たりにしたからだ。
時間とか場所とか人前とか一切が関係なく、
ただ純粋に突き進むこと。
そのことが僕にとって、物凄いセンセーショナルだった。
一途さの大切さ。
そんなことを教えられた瞬間だった。

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このブログ記事について

このページは、cforceが2006年7月13日 09:00に書いたブログ記事です。

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