text by 赤様
帰りの電車。
向かいに外国人の夫妻が座った。ともに40を少し過ぎたくらいに見える。
頭上で長い金髪を丁寧にまとめた女性は、ジーンズにブーツと黒いコートがとてもスタイリッシュだ。恰幅が良い男性は、カジュアルな装いだが、堂々とした風格がある。そんな彼らが、ローマ字で書かれた地下鉄の路線図を手に持ち、眉間にしわを寄せてそれを見ている。
しばらくして、スーツを着た日本人男性が乗り、彼らの隣に座った。ヘッドフォンをしていて音楽でも聞いているようだ。カバンからおもむろにペンと英会話のテキストを取り出すと、一心不乱に読み始めた。勤勉なジャパニーズビジネスマン。
それを見ていた外国人夫妻は、口を半開きにして目を丸くした。今まで紳士と淑女だった表情が、アメリカンコメディーのようにがらりと変わった。そんな彼らの驚きの表情がとても面白くて、僕は笑みを見せないように帽子を深くかぶりなおした。
その外国人が英語圏の人とは限らないが、サラリーマンが地下鉄の案内をしたら、ともに得るものがあるだろうにと、傍から見ていた僕は勝手に思ってしまったのだ。
彼らの目には、ジャパニーズサラリーマンはどう映ったのだろう。