text by 赤様
以前、野球場に勤めていた。グラウンドキーパーをしていた。選手、監督、コーチ、審判以外に、試合中にグラウンドに入ることが許される唯一の職種である。なので、テレビ中継がある試合のときは、テレビに映る機会もたびたびあった。
4月9日、阪神の金本知憲選手が大記録を達成した。試合開始から終了までを何試合も連続して出場し続けることの世界記録。鉄人と呼ばれる所以である。
フジテレビ「すぽると」というスポーツ情報番組では、その日、その出来事の特集VTRを放送した。記録達成までの過程を振り返るVTRには、彼が4年前まで所属していた広島時代のものもあった。
僕が映ったVTRが流れたのは、広島の野村謙二郎選手が怪我をしたシーンだ。当時の広島は中心選手の相次ぐ怪我で、チームの戦力は芳しくなかった。そんなチームの苦しい状況で、金本はちょっとの怪我で休んでいてはチームへ与えるマイナス要因は大きいんだと自覚する。それがこれまでの彼を支える信念になる。
で、問題のシーンである。1996年の神宮球場での試合。盗塁でセカンドベースに滑り込んだ野村は、ベース近くにうずくまった。左足首の剥離骨折だった。グラウンドキーパーの僕らは、野村を担架でベンチまで運んだ。そのシーンがTVで流れたのだ。10年前の自分がそこにいた。ちょっと懐かしかった。
そしてそのときの事を思い出した。80キロくらいある野村の身体は、担架の持ちにくさも手伝ってかなり重く感じた。観客やTVカメラからは見えないベンチ裏に入ると、今まで痛さをこらえていたのだろう、大きな声で痛がりはじめた。人前では弱さを見せないプロフェッショナルの姿だった。