text by 赤様
「しゃべっている人を黙らせる装置」を発明した日本の研究者が、
イグ・ノーベル賞を受賞した。
これで日本人の受賞は6年連続で、
1991年の賞の創設以来、17回にもおよぶ。
この装置は、話している人の声をマイクで拾い、
ごく限られた方向にしか音が飛ばないスピーカーで、
約0.2秒後に本人に声を送り返す仕組み。
普段、人間は声を出すのと同時に自分でも聞いているが、
これを少し遅れて聞こえるようにすると、
脳の中で混乱が生じて、
なぜかうまく話せなくなることが分かっている。
この装置は、その現象を逆手に取ったのだ。
選考関係者は、
「おしゃべりが過ぎる人をどう黙らせるかという、
人類の根源的な欲求にこたえようとした点が評価された」
となんとも大げさに説明している。
なんだか、ちょっと面白そうで、興味をそそられるが、
もっと深く知りたい人はネットで検索してほしい。
この装置のように、
この賞の選考対象になる研究も、とても面白いものばかりなのだが、
その授賞式もちょっと変わっている。
授賞式は、いつもアメリカのハーバード大学で開かれるが、
この式典に出席するのに旅費、滞在費は、なんと自己負担。
受賞後のスピーチは、聴衆から笑いをとることが求められる。
しかも、それには制限時間があり、
時間が近づくと、ぬいぐるみを抱えた女の子が
受賞者を壇上から下ろそうとするのだ。
でも、その女の子を買収すればスピーチを続けることが許されるので、
研究テーマと合わせて、そんなところもみどころだと思う。
僕なんか、この受賞式だけでもいいから
旅費をかけて見に行きたいと思うくらいだ。
イグ・ノーベル賞とはご存知のとおり、
「人々を笑わせ、考えさせてくれる研究」に対して贈られるもの。
アメリカの科学雑誌がノーベル賞のパロディーとして始めたもので、
どちらかと言うと、
ノーベル賞が硬く本質的な研究を対象にするのに対し、
イグ・ノーベル賞は、
ユーモアさえあれば人類の進歩への貢献には無関係でも、
選考の対象となる。
でもこの賞のそんなところが、
これからもっと必要になってくるのではないかと
僕は思っている。
最近は多様化の時代と言われ、
商品もサービスも、
多くの人にウケるものから、個々のニーズに合わせたものへと変化してきている。
ならばユーモアがあるものも、どんどん世の中に広がっていくべきだし、
社会がそういう頭の柔軟性を要求していくハズだと考えている。
また、そういう遊び心から、
研究者自身が本職の分野に対して、
新たな視点や方向性を閃かせることはあるハズ
(それくらいの柔らかさはあってほしい)なので、
そういう面でも期待感を抱かせる。
科学もアートも、
より柔軟性があるほうが面白いハズだから、
イグ・ノーベル賞がノーベル賞より注目される日が来てもいいなと、
僕は思っている。