text by 赤様
なでしこジャパンが女子ワールドカップで優勝した。
サッカーをよく知っている人ほど、
この優勝は信じられないことだろう。
ある男子の元日本代表選手が、
なでしこ選手にインタビューしたとき、
その横に置かれていた優勝トロフィーを見てこんなことを言った。
「触りたいが、恐れ多くて触れない」と。
ワールドカップ優勝という意味と価値を知る者ほど、
これは偉業であり、奇跡であると感じているだろう。
サッカーが盛んな国はたくさんあるのだから、
日本のような後進国が軽々と優勝してはいけないと思う者が、
もしかしたら、いるかもしれない。
でも、その快進撃は鮮やかだった。
実力的にも日本より格上の相手を次々と撃破していった。
この盛り上がりのなかで「それじゃ見てみようか」と、
初めて女子サッカーを見た人も多いはずだ。
ドイツ、スウェーデン、アメリカには、
これまで全くと言っていいほど、歯が立たなかったんだぞと、
その人たちにそう言っても、
信じてもらえないかもしれないほどの素晴らしい戦いぶりだった。
なでしこジャパンは、
今までの女子サッカーにはなかった、パスを繋ぐサッカースタイルと、
先の震災から復興するというバックグラウンドが重なり、
ひと試合ごとに世界中の共感を得ていった。
決勝を前に放送された、アメリカのあるテレビ番組では、
「アメリカが勝ってほしいと思っているのはアメリカ人だけで、
世界中が日本を応援している」とキャスターがコメントしていた。
「『なでしこ』とは、どういう意味だ?」
ドイツで取材中の日本報道陣は、
勝ち進むたびに、外国メディアからこんな質問を多く受けた。
そんななか、なでしこは見事な花を咲かせてみせた。
しかし、日本の女子サッカーの環境は決して良い状況ではない。
新卒の有力選手が、すんなりと社会人チームに入れる現状ではないのだ。
サッカーを続けるために、
何度も所属企業を探しては移籍する選手がほとんどだ。
今、在籍しているチームが来年どうなるかわからない。
チームどころか、一時は女子リーグ自体の存続も
危ぶまれた時期もあったほどだ。
多くのアマチュアスポーツのおかれた状況と同じで、
スポンサーや所属企業がみつからないというのが、
日本のスポーツの現状だ。
でもこの優勝が、
子どもたちに夢と希望をもたらし、サッカー人口の増加が期待できる。
また、女子サッカーを見ようとする人達が増えれば、
チームを持とう、支援しようとする企業が増えていくだろう。
だから、この優勝をただの優越感で終わらせてはいけない。
サッカー界全体で、この機会を大事に育てれば、
世界が認める真の強豪国になれるだろう。
この優勝がフロックだと言われないように、
これからの女子サッカーに注目していこう。