text by 赤様
10年連続200本安打を達成したイチロー。
何度もメディアで取り上げられるその凄さは、
もはや説明する必要はないだろう。
そのイチロー。
スポーツ選手のなかでも、
とりわけ準備に時間と手間をかける選手として有名だ。
試合前には誰よりも早く球場に入り、
ストレッチや、コンディションのチェックなどを入念に行う。
練習や試合のあとには、
いつも必ずグローブや、スパイクの手入れをする。
プロの選手は、とかくこの作業をスタッフに任せ、
自分では何もしない選手も多いなか、
イチローはこれを毎日欠かさない。
プロを目指したいと自ら言い出した小学生のイチローに、
父親は数万円もするプロ仕様のグローブを買い与えた。
道具を大切にするのは、そのころからの習慣だ。
また、少年イチローは、バッティングセンターに毎日通い、
放課後も友人と遊ぶのもそこそこに、父と約束した練習も欠かさなかった。
自分を高めるためのこの練習は、
自ら希望したイチローの意志によるものだ。
そして、その過程で生じる努力を、
苦痛だと思ったことは未だにないそうだ。
例え好きなことをやっていても、
目標達成に向けた鍛錬は、苦しいと思うのが人間というもの。
でも、そんな努力さえ苦にしないことが、
どんな超人的な記録よりも、
彼の最も偉大なところではないだろうか。
でも、そういう彼も、こんな一面がある。
彼は大の偏食家だ。
肉は牛肉しか、果物はメロンしか食べない。
父親は、長所を伸ばすのと引き替えに、
短所には目をつむったのだ。
親のフトコロの大きさナシにして、
今のイチローは存在せず、と言うことなのか。
ちなみに現在、イチローの朝食は、毎朝カレーである。
また、高校時代には別の一面も。
甲子園に出場を決めたときのこと。
メディアは、テレビ中継や紙面のネタにするために、
選手にアンケートをとるのだが、
下記のような質問に、イチローはこんなふうに答えている。
――将来何になりたいですか?
山の管理人
――趣味は?
たこ焼きの味覚調べ
穴をほる
――将来の目標や夢は?
キノコ園を営む
などなど。
僕が野球場に勤めていたとき、オープン戦で彼がやってきて、
僕は彼にサインをもらった。
前年レギュラーに定着して210本のヒットを打ち、
日本記録をつくったイチローは時の人だった。
僕らは、ベンチの奥の通路で休んでいた彼を見つけ、
サインを頼みに行った。
彼は僕らのサインに無言で応じてくれた。
そこまではよかったが、
それを察知した他の仲間が、
自分もサインが欲しいとばかりに、ゾロゾロとあとからやって来た。
それに気付いたイチローは、
「わー、おばけみたいだよーーー」と言いながら、
グラウンドへそそくさと逃げて行ってしまった。
幸い、僕はギリギリでサインしてもらえた。
今となっては貴重な瞬間だった。