text by 赤様
「なんも言えねぇ!」
ご存知のとおり、北島康介が金メダルをとったときのこの言葉。
4年前の「チョー気持ちいい!」に続き、またもや流行語大賞をさらう勢いです。
もう巷でも事あるごとに、
「なんも言えねぇ」をみんな連発していますね。
――― してねぇってば!
当の北島本人は、狙ってはいないんでしょうが、
こっちも連覇ってことになると、いささかそんな気もしてきちゃいますね。
さて、僕が今回の北京オリンピックで最も印象に残った言葉は、
その北島の言葉ではなく、
ハンマー投げの室伏広治の言葉です。
「4年間が1時間で終わった」と。
その言葉には、オリンピックに出場する選手たちの
偽らざる気持ちが表れているようで、心に重く響きました。
競技に対する情熱と、その努力が報われるかわからない儚さ。
4年に1度という僅かなチャンスが、それに輪をかけます。
その儚さは、「今がその時!」とばかりに一斉に咲き誇り、
あっという間に散ってしまう桜の花のようにも思えます。
日本人がオリンピックが好きな理由は、
そんなところにも拠るのでしょうか。
もし、自分自身が何年もかけてやってきたことが、
わずか数時間で成否が下されるとしたら、どう思いますか。
オリンピックでは、それが、柔道だったら試合時間は5分、
陸上100mだったら、たったの10秒です。
そう考えると、選手にむかって「ロンドンまでやってほしい」
などと容易には言えなくなってしまいます。
でも救われるのは、彼らはそれを理解していること。
室伏も、決してそんな憂いを伴っているのではなく、
「それを受け入れてやっている」という言葉が、
笑顔とともにテレビ画面から伝わってきました。
それを観て、僕はホッとしました。
確かに、オリンピックは4年に1度しかやってきませんし、
特別な大会であることに変わりはないのですが、
各競技の試合は、他にもどんどん続いていきます。
そういう試合のひとつひとつがあるからこそ、
年輪を重ねるように、選手は逞しくなっていくのです。
そんな過程を観ない手はないですよね。
だから、マスコミをはじめ、一般市民の皆さんも、
そろそろオリンピック至上主義はやめて、
それらの試合にも目を向けようではありませんか。
えっ、そういうお前が、「オリンピック」って最も騒いでいるって?
そう言われると、「なんも言えねぇ」のですが・・・