「音楽は、常にその時代の気分を伝えてくれます。」
実はこれ、いま政治家として活躍している、
田中康夫氏のエッセー「ぼくだけの東京ドライブ」の書き出しである。
ボクも本当にそう思う。
ボクの持っているこの本は、中央公論社の文庫版だ。
オリジナルは同社の「たまらなく、アーベイン」(昭和59年)で、
これに一部加筆し、改題したものがこの文庫だ。
この文庫は昭和62年発行なので1987年、今から20年ほど前の発行だ。
80年代前後の音楽を交えながら、ドライブのシチュエーションや
当時の風俗などを書いている。
ボクは当時クルマなんて持っていなかったので、どちらかというと
レコード・ガイドとして読もうと思って買った記憶がある。
もうすっかり紙ヤケして年代を感じさせるが
今でも手放せない文庫本のひとつだ。
この前に田中氏は、「なんとなく、クリスタル」(1980年)が大ヒットして、
当時の流行語にもなった作品を残している。
翌年には映画化され、主人公をかとうかずこさんが演じている。
(東国原英夫宮崎県知事の元奥さん。)
さて話は「ぼくだけの東京ドライブ」に戻ろう。
この本の中では、当時の気分を反映したような音楽が
数多く紹介されている。
そのなかでボクも聴いていた(あるいはレコードも持っていた)主なもの・・・
アレッシー/ジム・フォトグロ/ブレンダ・ラッセル
ステファン・ビショップ/シーウィンド/ニール・ラーセン
シャラマー/リー・リトナー/クリストファー・クロス
ロビー・デューク/マイケル・マクドナルド/パティ・オースチン
ザ・デュークス/アンジェラ・ボフィル/デニス・ウィリアムス
ピーター・アレン/マイケル・フランクス/マイケル・ジャクソン
ポール・デイビス/ロビー・デュプリー/ルパート・ホルムズ
ビル・ラバウンティ/ニック・デカロ/ボズ・スキャッグス
・・・・まだあるけどこの辺で。
当時これらの音楽の大半は、アダルト・エリエンテッド・ロック(APR)や
アダルト・コンテポラリー・ロック(ACR)などと呼ばれ
当時20代のボクのような年代に良く聴かれていた。
パーマネントのバンド形式のアーティストのレコードというより、
スタジオミュージシャンがバックを固め、プロデューサーの元
アーティストが自分の世界観を展開するという形式だ。
一時の流行だったが、7〜8年前位にもまた再流行して、
廃盤だったレコードが随分とCD化されたりした。
若い世代の購買層もあったとは思うが、大半はボクらのような
当時を振り返りたい層だと思う。
今ではその再流行も一段落したようだ。
でもね。
先ほどのアーティストの名前を見ているだけで、
やっぱりその歌声や演奏が蘇ってきて、それと見事にリンクして
当時の思い出がデコードされ、そのディテールも思い出したりする。
もう思い出になってしまったことばかりだけど、
冒頭に引用した田中氏の言葉のように
「音楽は、常にその時代の気分を伝えてくれます。」というのが
実感できるのだ。
80年代の気分を象徴するような音楽達があって、ボクは幸せだと思う。
これだから、ボクは音楽を好きなのかも知れない。
聴いているその時の楽しみとは別に、時間が経ってからも違った楽しみ方ができるのは、
音楽が持っているもうひとつの特性じゃないかと思う。
これには世代ということに関係なく、どの世代にもあるんだと思う。
残念ながらこの本、現在では発売はされていないが、某大手通販サイトで
中古でなら入手可能だ。
ボクと同世代の方々なら、音楽だけでなく、当時の風俗なども読みとれて、
興味深いのではないだろうか。二度おいしい本だね。