~世界陸上まであと30日!~
text by 赤様(大阪世界陸上を勝手に盛り上げよう委員会会長)
どれだけ遠くへ跳べるか。
走幅跳びの醍醐味は、まさにそれだ。だが、選手の立場ではもうひとつ磨かなければならないものがある。
それは踏み切り。
任意のところで踏み切ればいい走高跳びとは違い、幅跳びには踏み切り板というものがあるのはご存知だろう。選手は、遠くへ跳ぶ練習のほかに、踏み切る足を合わせる練習もしなければならない。
踏み切り板の幅は20cm。板の先には幅5センチの柔らかい粘土が置いてある。踏み切り板を少しでもはみ出すとスパイクの跡が残るようになっている。
踏み切りを意識しすぎると助走のスピードは遅くなり、距離は期待できなくなる。より遠くへ跳ぶには速い助走が必要だが、そうすると踏み切りを合わせるのはいっそう難しくなる。男子だと助走スピードは40km/h近くにもなるのだ。
たとえば、20歩助走して踏み切るとしよう。1歩あたり5cmずれただけでも踏み切りのところでは1mもずれてしまう計算になる。だから、いつも同じ歩幅で走ることが求められる。また助走距離も同じにしなければならなくなる。いつも同じ歩幅で歩くことすら意識していない一般の人にとって、これだけでも至難の技と言えるだろう。
助走路には、踏み切り板からメジャーが延ばしてあり、選手は自分の助走を始めるところに目印をつけておく。だから試合のときには、助走路の脇には各選手の目印がたくさん並んでいる。その目印も、人によっては歩幅を切り替える地点にも置いたり、踏み切り板の数歩手前のところにもうひとつ置いて、ここで足が合えば大丈夫という目印にしたり、各自の工夫が見られる。選手がトライできるのは6回だけ。1回でもファールしてしまうのが惜しいのだ。
世界陸上に出場するイケクミ(池田久美子)は、踏み切りを合わすのが上手い選手だ。7月23日付けの世界ランキングは9位。去年は6m86cmを跳び一躍世界トップレベルの仲間入りを果たした。これは前回大会の銀メダルに相当する。
彼女の目標は7m。ただ、今シーズンは今一歩という記録が多く順調とは言えない。助走のスピードアップには成功したものの、それを距離に結びつけるところで苦心している。
しかし、小学校6年生のとき5m以上を跳んで天才少女と言われ、同じ大会に出場した末次慎吾に幅跳びを諦めさせたこともある。そんな逸話を持つだけに、大阪では何かをやってくれるだろうと期待したい。