text by 赤様 ('07大阪世界陸上を勝手に盛り上げよう委員会)
神宮外苑に軟式野球場がある。
普段は草野球のグラウンドが6面あるそこに、
陸上競技のトラックが作られた。
1991年、世界陸上が東京の国立競技場で行われたとき、
隣にあるそのトラックが出場選手の練習場だった。
僕はその軟式野球場で働いていたこともあって、そこに入ることができた。
大会が始まる前、その出来立てホヤホヤのトラックを走らせてもらった。
工事が終わったばかりの真新しいトラックを、
目立たないようにと日没後の薄暗いなかを走った。
陸上のトラックは合成ゴム製で、
土のグラウンドやアスファルトと違い反発感がある。
学生時代陸上部だった僕はその感覚が好きで、
久しぶりにそれを味わいたかったのだ。
しかも新しいのでその反発感はより強力だった。
僕が「スゲーッ」と言ってはしゃいでいると、
めったなことでは走らない上司も走りだし、
普段見慣れないその姿が妙に可笑しかった。
大会が始まると、そのトラックでは世界中から来た選手がトレーニングを始めた。
長嶋茂雄が「ヘイ!カール」と何度も叫んでいたカール・ルイスや、
ソウル五輪でドーピング騒ぎを起こしたベン・ジョンソンなどが、
僕の目の前を通り過ぎていった。
僕のお目当ての選手は他にもたくさんいたが、
そんな彼らを間近で見られて僕は興奮状態だった。
チケットを取ってスタンドでも観戦したが、そこでの記憶の方が鮮明に残っている。
トラックの片すみには、飲み物の自販機があった。
大会のスポンサーであるコカコーラ社の自販機だ。
走り終えた選手がそこに近寄り飲み物を飲んでいる。
それを見た僕にはひとつの疑問が湧いてきた。
ユニフォーム姿の選手が小銭なんて持っているのだろうか?
そう思いながら自販機に近づくと、
購入するところのボタン全部にランプが点いている。
そう。小銭なんて必要ないのだ。
提供スポンサーの製品なので飲み放題なのは解釈できるが、
そういうモノはデッカイ冷蔵庫があれば十分のはず。
『自販機に入れる必要ないじゃん!』なんて思った。
でもそんな「夢のような機械」的な、
ボタンを押せば出てくる状態ってちょっと魅力的ですよね