第1回
「磁場が強いトコロに家を建てちゃったのかしら?」と母は言った。
磁場が強いと時の流れが早くなるのか。大人になった今でもそれはわからない。
姉は姉で朝の出来事など、とうの昔に忘れた風で、
当時流行していたルーズソックスをめんどくさそうに脱ぎながら、
冷蔵庫からチクワを取り出し食べはじめていた。
夜、八時半に父も帰ってきた。
夕飯の席では父が首をかしげながらリビングの時計を片眉をあげて睨んでいた。
「磁場......。かもしれんのぉ」とビールを飲んだ。
だが、父はすべてに気がついていた。
なぜなら、前夜の私の行動をいかがわしいテレビを見にきたその足で、
まじまじと観察していたからだ。
私が寝る寸前に部屋に来た父がゆっくりとベッドに腰かけ、そう話した。
私は父の静かな怒りを恐れた。涙もこみ上げてきた。しかし、父は怒らなかった。
つづく