工事現場

text by 赤様

スカイツリーの開業が、いよいよ秒読み段階に入った。
それに合わせて、関連本が次々に出版されている。
写真集は数種類あって、
僕は書店でその中の1冊を手にとった。
それは、芸術的なものではなく、
テレビでいうドキュメント番組のようなものだった。

まっさらな土地に杭を打つところ、
クレーンが鉄骨を引き上げる様子、
車が米粒くらいにしか見えないところで命綱1つで作業する労働者、
などなど。

指図する係員の威勢のいい掛け声や、
金属を溶接するバーナーの音が、
今にも聞こえてきそうなリアル感たっぷりの写真に、
僕は、しばらく見入ってしまった。

そんな建築途中のカットが多く、
ページをめくるたびに、
だんだんと組みあがっていく様子が見てとれて面白い。

それはまるで、
天に向かって徐々に伸びていく木(ツリー)のようだ。
スカイツリーと名づけた人は、そんな様子を想像していたのだろうか。

僕は子どものころから、そんな工事現場を見るのが好きで、
建物を建てる様子や、鳶の人が作業する様子を、
時間が経つのを忘れて、
ずっと見ていたことがよくあった。

僕が思うのは、
少年にとって、工事現場はワンダーランドなのだ。

この機械はどうなっているのだろう、
と、分解したくなる心境と同じく、
説明不能な好奇心が次から次へと湧いてきて、
この中では、何を作っているのだろうというワクワク感が溢れ出し、
覆っているフェンスの隙間から、よく中を覗き込んだ。

学生時代には搬入のアルバイトをよくやっていて、
オープン前の商業施設やオフィスビルに何度も入ったが、
複雑な建物の構造がわかったり、
日に日に出来上がっていく変化が見られて、
そんな空間に入れることが楽しかった。

だが、完成形や、中の構造がわかってしまうと、
分解した機械を元に戻す気力がなくなるのと同じで、
もう気持ちは次の「建築中」のものへと向いてしまう。

だから、冒頭の写真集を見終わったとき、
登ってみたいという心境がいつの間にか小さくなり、
何か、目新しそうな次の建造物の建築が始まらないかなあ?
と、他人には理解しがたい思いが生まれてきた。
この気持ち、わかるだろうか?

とはいえ、
高いところから見る風景は格別だし、
展望台にある空中回廊とかいうヤツも面白そうだし、
なんだかんだ言っても登りに行きたくなるのだろう。

でもそれは、
みんな見向きもしなくなり、
ガラガラに空いたころにしようかな、と。
どうせ眺めるのなら、
ゆっくりと東京の空を独占したいし。

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このページは、cmemberが2012年5月11日 08:34に書いたブログ記事です。

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